陰嚢水腫 - 富田林の泌尿器科

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陰嚢水腫とは

陰嚢水腫は、陰嚢内に液体が溜まることで陰嚢が腫れる疾患です。この記事では、陰嚢水腫の定義、原因、症状、診断、そして治療法について詳しく解説します。

陰嚢水腫の定義

陰嚢水腫とは、精巣を包む陰嚢内に液体が異常に貯留する状態を指します。この液体は、通常は精巣と陰嚢の間に少量存在する漿液性の液体で、精巣を保護し、精巣の温度調節に役立っています。しかし、何らかの原因でこの液体が過剰に溜まると、陰嚢が腫れ上がり、見た目の変化だけでなく、不快感や痛みを伴うこともあります。

陰嚢水腫は、年齢を問わず発症する可能性がありますが、特に新生児期と高齢者に多く見られます。新生児の場合、出生時に陰嚢水腫を呈することがありますが、多くは自然に治癒します。これは、胎児期の精巣下降過程の残存物である腹膜鞘状突起の閉鎖が生後まもなく完了するためです。一方、高齢者の場合は、加齢に伴う精巣上体の機能低下や、心疾患、肝疾患などの全身性疾患の影響で発症することが多いようです。

陰嚢水腫は、片側性(片方の陰嚢のみ)と両側性(両方の陰嚢)に分類されます。片側性の場合は、先天性の要因や片側の精巣・精巣上体の疾患が原因となることが多いのに対し、両側性の場合は、全身性疾患の影響を受けていることが多いとされています。

陰嚢水腫の原因

陰嚢水腫の原因は、大きく分けて先天性と後天性に分類されます。

先天性の陰嚢水腫は、胎児期の精巣下降過程での異常が原因で発症します。精巣は、元々は腹腔内にあり、発生の過程で鼠径管を通って陰嚢内へと下降します。この際、腹膜鞘状突起と呼ばれる管状の構造も一緒に下降しますが、通常は生後まもなく閉鎖します。しかし、何らかの理由でこの閉鎖が不完全であると、腹腔内の液体が陰嚢内に流入し、陰嚢水腫を引き起こします。先天性陰嚢水腫の多くは、この機序で発症すると考えられています。

後天性の陰嚢水腫の原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 精巣上体炎精巣上体に炎症が生じ、周囲組織の浮腫や液体の貯留を招く。
  • 外傷陰嚢部への直接的な外傷により、血管の損傷や炎症反応が起こり、液体貯留につながる。
  • 腫瘍精巣や精巣上体に発生した腫瘍が、リンパ流や静脈還流を阻害し、液体貯留の原因となる。
  • 心不全や肝硬変全身の浮腫の一部として陰嚢水腫を呈する。低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下や、静脈圧の上昇が関与する。
  • 感染症フィラリア症などの寄生虫感染により、リンパ管の閉塞が起こり、陰嚢水腫を呈することがある。

このように、陰嚢水腫の原因は多岐にわたります。したがって、陰嚢水腫を診断する際には、これらの原因を念頭に置き、詳細な病歴聴取と身体診察、必要な検査を行うことが大切です。

陰嚢水腫の症状

陰嚢水腫の主な症状は、陰嚢の片側または両側の腫脹です。腫脹の程度は様々で、小さいものでは鶏卵大、大きいものでは小児頭大に及ぶこともあります。腫脹は通常は緩徐に発症しますが、外傷や感染を契機に急激に増大することもあります。

腫脹した陰嚢の表面は平滑で、皮膚の色調は通常は変化しません。触診すると、波動(液体貯留に特徴的な感触)を感じることができます。また、精巣を触知することが難しくなる場合もあります。

その他の症状として、以下のようなものがあります。

  • 陰嚢部の不快感や重苦しさ腫脹により、歩行時や座位時に不快感を感じることがあります。
  • 陰嚢部の鈍痛液体の貯留による陰嚢内圧の上昇が、鈍い痛みを引き起こすことがあります。
  • 陰嚢皮膚の緊満感液体貯留により陰嚢皮膚が伸展され、緊満感を感じることがあります。
  • 歩行時の違和感大きな陰嚢水腫では、歩行時に陰嚢が大腿部に接触し、違和感を感じることがあります。

一般的に、痛みは軽度であることが多いですが、感染を伴う場合や、嵌頓(陰嚢内容物が絞扼されること)を起こした場合は、強い痛みを伴います。感染を伴う場合は、発熱や陰嚢の発赤、熱感なども見られます。嵌頓を起こした場合は、陰嚢の急激な腫脹と強い痛み、嘔気・嘔吐などの症状を呈します。これらは緊急を要する病態であり、速やかな医療機関の受診が必要です。

また、新生児の陰嚢水腫では、哺乳量の低下や体重増加不良などの全身症状を伴うこともあります。新生児期の陰嚢腫脹を認めた場合は、小児科医の診察を受けることが大切です。

陰嚢水腫の診断

陰嚢水腫の診断は、主に理学的所見と超音波検査によってなされます。

理学的所見では、まず陰嚢の腫脹を確認します。腫脹の程度、左右差、皮膚の色調変化などを観察します。次に、触診を行います。触診では、波動(液体貯留に特徴的な感触)の有無を確認します。また、精巣の位置や大きさ、圧痛の有無なども評価します。精巣が触知できない場合は、鼠径部まで触診を広げ、精巣の位置を確認します。

超音波検査は、陰嚢水腫の診断に最も有用な検査法です。超音波検査では、陰嚢内の液体貯留を直接的に観察できます。液体は無エコー領域として描出され、その量や分布を評価することができます。また、精巣や精巣上体の異常の有無も同時に評価できるため、陰嚢水腫の原因検索に非常に有用です。例えば、精巣腫瘍や精巣上体炎などの病変を検出することができます。

その他、必要に応じて以下のような検査が行われることもあります。

  • 血液検査感染の有無を評価するための白血球数やCRP値の測定、腫瘍マーカー(AFP、hCGなど)の評価などが行われます。
  • MRI検査超音波検査では評価が難しい精巣や精巣上体の詳細な評価が必要な場合に行われます。
  • 穿刺吸引細胞診陰嚢水腫の内容液を採取し、細胞を顕微鏡で観察します。腫瘍の鑑別診断に有用です。

これらの検査結果を総合的に判断し、陰嚢水腫の原因や重症度を評価します。また、治療方針の決定にも役立てられます。

なお、小児、特に新生児の陰嚢水腫では、鼠径ヘルニアとの鑑別が重要です。鼠径ヘルニアでは、腸管などの腹腔内臓器が陰嚢内に脱出するため、還納(陰嚢内容物を腹腔内に戻すこと)が可能な場合があります。還納の可否は、鼠径ヘルニアと陰嚢水腫の鑑別点の一つです。

陰嚢水腫の治療

陰嚢水腫の治療法は、原因や重症度によって異なります。以下に主な治療法を解説します。

穿刺排液

比較的少量の陰嚢水腫に対して行われる治療法です。局所麻酔下に、陰嚢に細い針を刺して液体を排出します。手技は簡単で、外来でも行うことができます。ただし、再発率が高いのが欠点です。穿刺排液は、診断的な意味合いも兼ねて行われることがあります。排液した液体を分析することで、原因の特定に役立てることができます。

穿刺排液は、感染のリスクを伴います。したがって、無菌的操作を徹底することが大切です。また、血管や精巣を損傷しないよう、超音波ガイド下で行うことが推奨されています。

硬化療法

穿刺排液と同様に陰嚢に針を刺して液体を排出しますが、加えて硬化剤を注入します。硬化剤によって陰嚢内の組織が癒着し、液体の再貯留を防ぐことができます。再発率は穿刺排液よりも低いですが、複数回の治療を要することもあります。

硬化剤としては、テトラサイクリン系抗生物質やOK-432などが用いられます。これらの薬剤は、陰嚢内に炎症反応を惹起し、組織の癒着を促進します。

硬化療法は、比較的侵襲が少なく、外来でも行うことができます。しかし、感染や陰嚢内容物の損傷、硬化剤の漏出などの合併症のリスクがあります。また、アレルギー反応を起こすこともあるため、使用する薬剤の選択には注意が必要です。

手術療法

陰嚢水腫の根治的治療は手術療法です。全身麻酔または腰椎麻酔下に、陰嚢に切開を加え、液体を排出します。そして、精巣鞘膜を反転させるなどの処置を行い、液体の再貯留を防ぎます。

手術療法には、以下のような種類があります。

  • ウィンケルマン手術陰嚢内容物を脱転し、精巣鞘膜を反転させる方法。最も一般的な手術法です。
  • ロード手術精巣鞘膜を切開し、液体を排出した後、鞘膜を切除する方法。再発率が低いとされています。
  • 精巣固定術精巣を陰嚢皮膚に固定する方法。主に小児の陰嚢水腫に対して行われます。

手術療法は再発率が低く、確実性の高い治療法ですが、侵襲が大きいのが欠点です。また、手術後は一定期間の安静が必要です。合併症としては、感染、血腫、精巣の萎縮などが挙げられます。

以上が、陰嚢水腫の診断と治療に関する概略です。陰嚢水腫は、適切な治療によって十分に制御可能な疾患ですが、症状が出現した場合は、早期に医療機関を受診することが大切です。特に、急激な陰嚢の腫脹や強い痛みを伴う場合は、緊急の対応が必要となります。

また、陰嚢水腫を予防するために、日頃から陰嚢部の清潔を保ち、外傷を避けるなどの注意が必要です。定期的な自己検診により、早期発見・早期治療につなげることも重要といえるでしょう。

陰嚢は、精巣という男性にとって重要な臓器を保護する役割を担っています。陰嚢に異常を感じた場合は、恥ずかしがらずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。医療者は、患者のプライバシーに配慮しつつ、丁寧な説明と適切な治療を心がける必要があります。

また、パートナーを持つ男性においては、陰嚢水腫がパートナーとの性生活に影響を及ぼすことがあります。疾患についての正しい理解と、お互いのコミュニケーションが重要です。医療者は、必要に応じてカウンセリングや性生活に関する助言も行うべきでしょう。

陰嚢水腫は、時に患者の生活の質を大きく低下させる疾患です。しかし、適切な診断と治療、そしてサポートがあれば、十分に克服することができます。医療者と患者、そして患者を取り巻く人々が協力し合い、陰嚢水腫という疾患に立ち向かっていくことが大切だと言えるでしょう。

陰嚢水腫の予後と合併症

陰嚢水腫の予後は、原因や治療法によって異なります。一般的に、適切な治療を受けることで、良好な予後が期待できます。しかし、いくつかの合併症にも注意が必要です。

感染は、陰嚢水腫の最も重要な合併症の一つです。特に、穿刺排液や硬化療法、手術療法などの侵襲的な治療を受けた場合は、感染のリスクが高くなります。感染が重篤化すると、精巣の損傷や敗血症などの深刻な健康被害につながる可能性があります。

また、長期に渡る陰嚢水腫では、精巣の萎縮が起こることがあります。これは、液体による圧迫が精巣の血流を阻害し、組織の変性を引き起こすためです。精巣の萎縮は、男性ホルモンの産生低下や造精機能の低下を招き、性機能や生殖能力に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、陰嚢水腫による陰嚢の腫脹が、日常生活に支障をきたすこともあります。大きな陰嚢水腫では、歩行や座位が困難になったり、衣服の選択に制限が生じたりします。これらは、患者の生活の質を大きく低下させる要因となります。

一方、小児の陰嚢水腫では、特有の合併症にも注意が必要です。先天性陰嚢水腫では、鼠径ヘルニアを合併することがあります。鼠径ヘルニアが嵌頓した場合は、緊急手術が必要となります。また、陰嚢水腫による陰嚢の腫脹が、精巣の下降を妨げ、停留精巣を引き起こすこともあります。停留精巣は、将来的な造精機能の低下や精巣腫瘍のリスク因子となります。

したがって、陰嚢水腫の治療では、これらの合併症を予防し、早期に発見・対処することが重要です。治療後も、定期的な経過観察を行い、再発や合併症の有無を確認する必要があります。

結語

陰嚢水腫は、決して軽視できない疾患です。しかし、正しい知識と適切な対応があれば、十分に克服することができます。医療者は、患者に寄り添い、丁寧な説明と適切な治療を提供するよう心がけるべきです。そして、患者自身も、自分の健康に関心を持ち、異変を感じたら早めに医療機関を受診することが大切です。

社会全体としても、陰嚢水腫を含む男性特有の疾患に対する理解を深め、サポート体制を整えていく必要があります。学校教育の場で男性の健康問題について触れたり、職場での理解を促進したりするなど、多方面からのアプローチが求められます。

陰嚢水腫は、男性の健康と生活の質に大きな影響を及ぼす疾患ですが、適切な対応によって乗り越えることができます。医療者と患者、そして社会が一体となって、この疾患に立ち向かっていくことが重要だと言えるでしょう。