停留睾丸 - 富田林の泌尿器科

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停留睾丸とは

停留睾丸は、男性特有の先天性疾患の一つであり、新生児期から小児期にかけて見られる比較的よくある状態です。
この疾患は、男児の正常な発達や将来の生殖機能に影響を及ぼす可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。
この記事では、停留睾丸の定義、原因、症状、診断、そして治療法について詳しく解説していきます。

停留睾丸の定義

停留睾丸とは、本来陰嚢内に下降するはずの睾丸が、生まれた時点で陰嚢内に存在しない状態を指します。通常、男児の睾丸は胎児期に腹腔内で形成され、出生前に鼠径管を通って陰嚢内に下降します。この下降は、通常、妊娠28週頃から始まり、出生時までに完了します。しかし、何らかの原因でこの下降が完了しない場合、睾丸は腹腔内、鼠径管内、または陰嚢入口部付近に留まることになります。

片側性の停留睾丸の発生率は新生児の約3%、両側性の場合は約0.5%とされています。ただし、早産児では発生率が高くなる傾向があり、在胎週数が短いほど、その傾向は顕著になります。また、出生時体重が2,500g未満の低出生体重児でも、停留睾丸の発生率が高いことが知られています。

停留睾丸は、睾丸の位置によって以下のように分類されます

  • 腹腔内停留睾丸睾丸が腹腔内にとどまっている状態。
  • 鼠径管内停留睾丸睾丸が鼠径管内に存在する状態。
  • 陰嚢上停留睾丸睾丸が陰嚢入口部付近にとどまっている状態。

停留睾丸は、時として他の先天性疾患や染色体異常を合併することがあります。例えば、Prader-Willi症候群、Kallmann症候群、Klinefelter症候群などでは、停留睾丸の発生率が高いことが知られています。

停留睾丸の原因

停留睾丸の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。

  • ホルモンの異常睾丸の下降には、胎児期のテストステロンなどの男性ホルモンが重要な役割を果たしています。Anti-Müllerian Hormone(AMH)やInsulin-like 3(INSL3)などのホルモンも、睾丸の下降に関与しています。これらのホルモン分泌の異常があると、睾丸の下降が妨げられる可能性があります。
  • 解剖学的異常鼠径管の発達不全や、睾丸を牽引する gubernaculum の異常などが原因となる場合があります。Gubernaculum は、胎児期に睾丸を陰嚢へと導く索状構造物です。また、腹壁の異常や、腹腔内の癒着なども、睾丸の下降を妨げる可能性があります。
  • 遺伝的要因家族内発生が認められることがあり、遺伝的素因の関与が示唆されています。いくつかの遺伝子(INSL3、LGR8、HOXAなど)の変異が、停留睾丸との関連が報告されていますが、明確な因果関係は確立されていません。
  • 低出生体重・早産早産児や低出生体重児では、停留睾丸の発生率が高くなります。これは、在胎期間が短いことによる睾丸下降の未完了や、ホルモン分泌の未熟性などが原因と考えられています。
  • 母体要因妊娠中の母体の喫煙、飲酒、化学物質への曝露などが、停留睾丸のリスクを上昇させる可能性があります。また、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群なども、停留睾丸との関連が示唆されています。
  • 環境要因環境中の内分泌かく乱物質(環境ホルモン)への曝露が、停留睾丸のリスクを上昇させる可能性が指摘されています。しかし、明確な因果関係は確立されていません。

停留睾丸の原因は多因子的であり、複数の要因が複雑に絡み合って発生すると考えられています。今後のさらなる研究によって、より詳細な病態メカニズムが解明されることが期待されます。

停留睾丸の症状

停留睾丸自体に特有の症状はありませんが、以下のような問題を引き起こす可能性があります。

  • 不妊症停留睾丸は精子形成に適した環境ではないため、放置すると将来的な妊孕性の低下につながる可能性があります。停留睾丸では、精細管の発育不全や、精母細胞の減少などが認められます。特に、思春期以降も睾丸が陰嚢内に下降しない場合、不可逆的な精子形成能の低下を来たすリスクが高くなります。
  • 精巣腫瘍停留睾丸を持つ男性は、正常な位置にある睾丸と比べて精巣腫瘍のリスクが高くなります。一般的に、停留睾丸における精巣腫瘍の発生率は、正常睾丸の約10倍とされています。seminoma、embryonal carcinoma、teratoma などの胚細胞腫瘍が多くを占めます。リスクは思春期以降に上昇し、30歳代でピークに達すると考えられています。
  • 精巣捻転停留睾丸は精巣捻転を起こしやすく、激しい陰嚢部痛や腫脹を引き起こす可能性があります。精巣捻転は、睾丸への血流を遮断し、睾丸の壊死を引き起こす緊急疾患です。速やかな診断と治療が必要とされます。
  • ヘルニア鼠径ヘルニアを合併することがあります。停留睾丸では、鼠径管が開存していることが多く、腸管などの腹腔内臓器が脱出しやすい状態にあります。ヘルニアは、鼠径部の膨隆や疼痛を引き起こす可能性があります。
  • 心理的影響思春期以降、外見上の問題から精神的なストレスを感じる場合があります。陰嚢内に睾丸が触知できないことで、男性としてのアイデンティティに悪影響を及ぼす可能性があります。また、不妊症のリスクについて過度に不安を感じることもあります。
  • 低身長両側性の停留睾丸では、思春期のテストステロン分泌が不十分となり、二次性徴の発来が遅れたり、身長の伸びが悪くなったりする可能性があります。

これらの合併症を予防し、健やかな成長と発達を促すためにも、停留睾丸の早期発見と適切な治療が重要です。定期的な健診で異常を見逃さないことが大切です。

停留睾丸の診断

停留睾丸の診断は、主に理学的検査によって行われます。新生児期や乳児期の健診で、医師が陰嚢内の睾丸の有無を確認します。睾丸が触知できない場合、以下のような検査が行われることがあります。

  • 超音波検査睾丸の位置を特定するために使用されます。高周波の音波を用いて体内の構造を画像化する検査です。非侵襲的で、放射線被曝がないため、小児にも安全に行うことができます。ただし、腹腔内の睾丸の描出は困難な場合があります。
  • MRI検査超音波検査で睾丸が確認できない場合に、より詳細な情報を得るために行われることがあります。MRIは、強力な磁場と電波を用いて体内の構造を画像化する検査です。軟部組織のコントラストに優れ、腹腔内の睾丸の描出に有用です。ただし、鎮静や全身麻酔が必要となることがあります。
  • 内分泌検査ホルモン異常の有無を調べるために、血中のテストステロンやゴナドトロピンのレベルを測定することがあります。思春期前の男児では、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)負荷試験が行われることもあります。この試験では、LHRHを投与し、それに対するLHとFSHの反応を評価します。
  • 腹腔鏡検査腹腔内の睾丸の位置を直接確認するために行われることがあります。腹壁に小さな切開を加え、カメラを挿入して腹腔内を観察します。侵襲的な検査ですが、診断と治療を兼ねて行うことができます。
  • 染色体検査停留睾丸を合併する染色体異常の有無を調べるために行われることがあります。Klinefelter症候群などでは、染色体検査が診断に有用です。

これらの検査結果を総合的に判断し、停留睾丸の診断を確定します。また、合併症の有無や、睾丸の位置、大きさなどを評価し、治療方針を決定します。

停留睾丸の治療

停留睾丸の治療は、睾丸の位置や患者の年齢によって異なります。以下に、主な治療法を紹介します。

ホルモン療法

ホルモン療法は、主に6ヶ月から1歳未満の乳児に対して行われます。ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を投与することで、睾丸の下降を促します。hCGは、精巣のLeydig細胞に作用し、テストステロンの産生を刺激します。GnRHは、下垂体からのLHとFSHの分泌を促進し、間接的にテストステロンの産生を高めます。

ホルモン療法の適応は、主に陰嚢上停留睾丸や、鼠径管内停留睾丸の一部です。腹腔内停留睾丸に対するホルモン療法の効果は限定的です。

ホルモン療法の実際の方法としては、hCGの筋肉内注射が一般的です。通常、週1~2回、4~6週間にわたって投与します。GnRHの点鼻薬を使用することもあります。

ホルモン療法の奏功率は、睾丸の位置によって異なりますが、全体では20~50%程度とされています。ただし、効果は一時的で、多くの場合は再度睾丸が上昇してしまいます。また、副作用として、陰茎の肥大や、早期思春期様の変化などが報告されています。

ホルモン療法の効果が不十分な場合や、睾丸が再上昇した場合は、手術療法を検討する必要があります。

手術療法

手術療法は、停留睾丸の標準的な治療法です。一般的に、6ヶ月から18ヶ月の間に行われることが推奨されています。手術は全身麻酔下で行われ、睾丸を陰嚢内に固定します(精巣固定術)。

手術の方法は、睾丸の位置によって異なります。鼠径管内停留睾丸や陰嚢上停留睾丸では、鼠径部に切開を加え、睾丸を陰嚢内に誘導・固定します(鼠径法)。腹腔内停留睾丸では、腹腔鏡下で睾丸を確認し、鼠径管を通して陰嚢内に誘導・固定します(腹腔鏡下精巣固定術)。

手術の成功率は高く、95%以上の症例で睾丸の陰嚢内への固定が可能とされています。合併症としては、感染、出血、精索の損傷などがありますが、頻度は低いとされています。

手術のタイミングが遅れると、精子形成能の低下や精巣腫瘍のリスクが高まるため、早期の治療が重要です。特に、思春期前に手術を行うことが推奨されています。

経過観察

まれに、生後数ヶ月以内に自然に睾丸が下降することがあります。そのため、特に早産児や低出生体重児では、数ヶ月間は経過観察を行うこともあります。ただし、6ヶ月を過ぎても睾丸が下降しない場合は、手術療法を検討する必要があります。

経過観察中は、定期的に睾丸の位置や大きさを評価します。自然下降が期待できない場合や、睾丸の成長が不良な場合は、早めに治療を開始することが大切です。

  • 停留睾丸の予後 停留睾丸の予後は、治療の時期と方法によって大きく異なります。早期に適切な治療を行えば、良好な予後が期待できます。
  • 精子形成能 停留睾丸では、精子形成能の低下が問題となります。特に、思春期以降も睾丸が陰嚢内に下降しない場合、不可逆的な精子形成能の低下を来たすリスクが高くなります。
    一方、早期(1~2歳まで)に治療を行えば、精子形成能の回復が期待できます。片側性の停留睾丸では、健側の睾丸が代償的に肥大し、正常な精子形成能を維持することが多いとされています。
    ただし、両側性の停留睾丸では、不妊症のリスクがより高くなります。適切な治療を行っても、正常な精子形成能が得られない場合があります。
  • 精巣腫瘍 停留睾丸では、精巣腫瘍のリスクが高くなります。しかし、早期に治療を行うことで、リスクを低減することができます。
    一般的に、思春期前に精巣固定術を行った場合、精巣腫瘍のリスクは正常睾丸の2~3倍程度とされています。一方、思春期以降に治療を行った場合や、未治療の場合は、リスクがさらに上昇します。
    停留睾丸の既往がある男性は、自己検診や定期的な医療機関での検診が重要です。早期発見・早期治療が予後の改善につながります。
  • 精神的影響 思春期以降、停留睾丸による外見上の問題から精神的なストレスを感じる場合があります。早期の治療により、外見上の問題を解消することが大切です。
    また、不妊症のリスクについて過度に不安を感じる場合があります。医療者は、リスクについて正確な情報提供を行い、必要に応じて心理的なサポートを提供することが重要です。

結論

停留睾丸は、男児によくみられる先天性疾患の一つです。放置すると、不妊症や精巣腫瘍のリスクが高まるため、早期発見と適切な治療が重要です。

治療は、主に手術療法が選択されます。6ヶ月から18ヶ月の間に精巣固定術を行うことが推奨されています。早期の治療により、良好な予後が期待できます。

停留睾丸と診断された場合は、小児泌尿器科医や小児外科医と相談し、最適な治療方針を決定することが大切です。また、定期的な経過観察を行い、合併症の早期発見・治療に努めることが重要です。

思春期以降は、自己検診や医療機関での検診を継続することが求められます。精巣腫瘍の早期発見・早期治療が予後の改善につながります。