睾丸腫瘍 - 富田林の泌尿器科

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睾丸腫瘍とは

睾丸腫瘍は、男性の睾丸に発生する悪性腫瘍です。比較的稀な疾患ですが、15歳から35歳の若年男性に多く見られます。早期発見と適切な治療によって、高い治癒率が期待できる疾患でもあります。睾丸は、男性ホルモンであるテストステロンと精子を生成する重要な臓器であり、睾丸腫瘍はこの機能に大きな影響を与えます。睾丸腫瘍は、患者の身体的な健康だけでなく、心理的・社会的な well-being にも深刻な影響を及ぼします。

睾丸腫瘍の発生率は、世界的に見ると地域差があります。欧米諸国では比較的高く、アジアでは低い傾向にあります。しかし、近年、日本を含むアジア諸国でも睾丸腫瘍の発生率は増加傾向にあり、若年男性の健康問題として注目を集めています。

睾丸腫瘍の定義

睾丸腫瘍は、睾丸に発生する悪性腫瘍の総称です。睾丸は、男性ホルモンであるテストステロンと精子を生成する重要な臓器です。睾丸腫瘍は、この睾丸内の細胞が異常に増殖することで発生します。睾丸腫瘍は、組織型によって、セミノーマと非セミノーマに大別されます。

セミノーマは、精細胞由来の腫瘍であり、比較的ゆっくりと進行します。一方、非セミノーマは、胚細胞由来の腫瘍であり、急速に進行する傾向があります。非セミノーマには、胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫などの組織型が含まれます。

睾丸腫瘍の種類

睾丸腫瘍は、病理学的に大きく分けて2つのタイプに分類されます。セミノーマと非セミノーマです。この2つのタイプは、発生起源、進行速度、転移様式などが異なるため、治療方針も異なります。

セミノーマ

セミノーマは、睾丸腫瘍の約50%を占める最も一般的なタイプです。精細胞から発生し、比較的ゆっくりと進行します。単一の腫瘍として発生することが多く、転移も限定的です。セミノーマは、病理学的に classical seminoma、anaplastic seminoma、spermatocytic seminoma に分類されます。

Classical seminoma は、最も一般的なタイプで、均一な腫瘍細胞が充実性の胞巣を形成します。Anaplastic seminoma は、細胞異型が強く、核分裂像が多く見られます。予後は classical seminoma と同等とされています。Spermatocytic seminoma は、高齢者に多く、予後良好です。

セミノーマは、放射線感受性が高く、化学療法にも良好な反応を示します。早期のセミノーマに対しては、高位精巣摘除術と放射線療法が標準的な治療とされています。進行例に対しては、化学療法が有効です。

非セミノーマ

非セミノーマは、セミノーマ以外の睾丸腫瘍を指します。胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫などが含まれます。非セミノーマは、セミノーマと比べて進行が速く、転移のリスクも高いです。複数の腫瘍タイプが混在していることもあります。

胎児性癌は、未分化な細胞からなる悪性度の高い腫瘍です。急速に進行し、早期に転移をきたすことがあります。卵黄嚢腫瘍は、胎児性癌と同様に悪性度が高く、AFP(α-fetoprotein)の上昇を伴います。絨毛癌は、胎盤の絨毛細胞に類似した腫瘍で、hCG(human chorionic gonadotropin)の上昇を伴います。奇形腫は、三胚葉性の組織を含む腫瘍で、成熟奇形腫と未熟奇形腫に分類されます。

非セミノーマに対する標準的な治療は、高位精巣摘除術と化学療法の組み合わせです。化学療法は、シスプラチンを中心とした多剤併用療法(BEP療法など)が用いられます。化学療法後の残存腫瘍に対しては、追加の外科的切除が考慮されます。

睾丸腫瘍の症状

睾丸腫瘍の初期症状は、以下のようなものがあります。

  • 睾丸の腫れや硬結患側の睾丸が腫れたり、硬く触れたりします。無痛性のことが多いですが、痛みを伴う場合もあります。
  • 睾丸の痛みや不快感鈍痛や重苦しさを感じることがあります。
  • 下腹部や腰の痛み腫瘍が後腹膜リンパ節に転移した場合、下腹部や腰に痛みを感じることがあります。
  • 胸部の違和感腫瘍が肺や縦隔リンパ節に転移した場合、胸部の違和感や呼吸困難を感じることがあります。

ただし、初期段階では無症状のこともあるため、定期的な自己検診が重要です。自己検診は、月に一度、入浴時などに両側の睾丸を触診することで行います。硬結や腫れ、痛みなどの異常を感じたら、速やかに医療機関を受診しましょう。

また、睾丸腫瘍が進行すると、全身症状も現れることがあります。倦怠感、体重減少、発熱などがその例です。転移による症状として、背部痛、咳嗽、呼吸困難、胸痛、腹痛、排尿障害などが見られることもあります。

睾丸腫瘍の原因

睾丸腫瘍の正確な原因は明らかになっていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。

  • 停留睾丸(陰嚢内に下降しない睾丸)の既往停留睾丸は、睾丸腫瘍の重要なリスク因子です。思春期までに治療されていない場合、睾丸腫瘍のリスクが高くなります。
  • 家族歴父親や兄弟に睾丸腫瘍の既往がある場合、睾丸腫瘍のリスクが高くなります。
  • 染色体異常Klinefelter症候群(47,XXY)などの性染色体異常では、睾丸腫瘍のリスクが高くなります。
  • 環境因子農薬や有機溶剤への曝露が、睾丸腫瘍のリスクを高める可能性が指摘されています。
    また、思春期の早発や遅発、精子濃度の低下、低出生体重児、尿道下裂などとの関連も示唆されていますが、明確なエビデンスは得られていません。

睾丸腫瘍の発症には、遺伝的素因と環境因子の複雑な相互作用が関与していると考えられます。しかし、詳細なメカニズムは未だ明らかになっておらず、更なる研究が必要とされています。

睾丸腫瘍の診断

睾丸腫瘍の診断には、以下のような検査が行われます。

  • 身体診察睾丸の触診により、腫瘤の有無、大きさ、硬さ、圧痛などを評価します。
  • 超音波検査睾丸内の腫瘍を描出するのに有用です。腫瘍の大きさ、内部エコー、血流などを評価します。
  • 血液検査腫瘍マーカー(AFP、hCG、LDHなど)の測定が行われます。腫瘍マーカーは、診断だけでなく、治療効果の判定や再発のモニタリングにも用いられます。
  • CT検査やMRI検査転移の有無を確認するために行われます。後腹膜リンパ節、肺、肝臓などの評価に有用です。
  • 生検腫瘍の一部を採取し、病理学的に診断するために行われます。ただし、睾丸腫瘍の場合、生検により腫瘍細胞が散布されるリスクがあるため、一般的には高位精巣摘除術が診断と治療を兼ねて行われます。
    早期発見のために、月に一度の自己検診が推奨されています。自己検診で異常を感じたら、速やかに医療機関を受診することが重要です。

また、睾丸腫瘍の診断時には、病期(ステージ)の評価も行われます。病期は、腫瘍の広がりに応じて、I期からIII期に分類されます。病期の評価には、血液検査、画像検査、病理検査などが用いられます。正確な病期の評価は、適切な治療方針の決定に不可欠です。

睾丸腫瘍の治療

睾丸腫瘍の治療は、腫瘍のタイプや進行度によって異なります。主な治療法は以下の通りです。

手術療法

睾丸腫瘍の基本的な治療は、患側の睾丸を摘出する高位精巣摘除術です。この手術により、腫瘍の完全切除と病理学的診断が行われます。腫瘍が精索に浸潤している場合は、精索も含めて切除されます。

リンパ節転移が疑われる場合は、後腹膜リンパ節郭清術が行われることもあります。この手術では、腫瘍の転移が疑われるリンパ節を摘出します。ただし、近年は化学療法の進歩により、後腹膜リンパ節郭清術の適応は限定的になってきています。

また、両側性の睾丸腫瘍や、片側の睾丸摘出後の対側腫瘍に対しては、腫瘍の部分切除や精巣温存手術が考慮されることもあります。

化学療法

セミノーマ、非セミノーマともに化学療法が有効です。シスプラチンを中心とした多剤併用療法が標準的に用いられます。代表的なレジメンは、BEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)やEP療法(エトポシド、シスプラチン)です。

化学療法は、転移がある場合や再発リスクが高い場合に適用されます。セミノーマでは、IIA期やIIB期の一部で化学療法が用いられます。非セミノーマでは、IB期以上で化学療法が標準治療とされています。

化学療法の効果は、腫瘍マーカーの推移や画像検査により評価されます。化学療法後に残存腫瘍が認められる場合は、追加の外科的切除が考慮されます。

放射線療法

セミノーマに対しては、放射線療法が有効です。リンパ節転移が限局している場合や、化学療法後の残存腫瘍に対して用いられます。一般的には、傍大動脈リンパ節領域に対して照射が行われます。

非セミノーマに対する放射線療法の効果は限定的であり、一般的には用いられません。ただし、脳転移や骨転移など、化学療法の効果が不十分な場合に、姑息的な目的で用いられることがあります。

放射線療法の副作用として、急性期には、悪心、嘔吐、食欲不振、倦怠感などが見られることがあります。晩期合併症としては、二次がんのリスクや、精子形成障害による不妊が問題となります。

睾丸腫瘍は、早期発見と適切な治療によって高い治癒率が期待できる疾患です。治療後は定期的な経過観察が重要であり、再発の兆候がないかを慎重にモニタリングします。経過観察には、身体診察、腫瘍マーカーの測定、画像検査などが用いられます。再発が疑われる場合は、速やかに治療が開始されます。

また、患者のQOL(生活の質)を維持するために、治療の副作用やfertility(生殖機能)への影響についても十分な配慮が必要です。化学療法による精子形成障害は、不可逆的なことがあるため、治療前に精子凍結などの生殖機能温存療法について、患者と十分に話し合う必要があります。また、治療後の性機能障害やボディイメージの変化に対するサポートも重要です。

睾丸腫瘍は、若年男性に発生することが多いため、早期発見のための啓発活動が重要です。自己検診の方法を広く周知し、異常を感じたら速やかに医療機関を受診するよう促すことが大切です。また、学校教育の現場でも、睾丸腫瘍についての正しい知識を提供し、若年男性の健康意識を高めていくことが求められます。

具体的には、中学生や高校生を対象とした健康教育の中で、睾丸腫瘍の症状や自己検診の方法について触れることが有効です。また、大学や職場での健康教育プログラムにも、睾丸腫瘍に関する情報を盛り込むことが望まれます。

医療機関においても、若年男性患者に対して、積極的に睾丸腫瘍の啓発を行うことが重要です。特に、思春期の男性に対しては、自己検診の重要性を説明し、定期的な実施を促すことが求められます。また、健診の場においても、睾丸の触診を含めることで、早期発見につなげることができます。

治療後の心理的サポートや長期的なフォローアップ体制の整備も重要な課題です。睾丸腫瘍の診断は、患者やその家族にとって大きなショックであり、治療中も様々な不安やストレスを抱えることになります。医療者は、医学的な側面だけでなく、心理社会的な側面にも配慮しながら、患者とその家族に寄り添ったケアを提供していく必要があります。

具体的には、患者やその家族に対して、病状や治療方針について十分な説明を行い、心理的なサポートを提供することが重要です。また、必要に応じて、心理療法やカウンセリングなどの専門的な介入を行うことも考慮されます。

治療後は、長期的なフォローアップ体制の整備が求められます。再発の早期発見だけでなく、晩期合併症のモニタリングや、心理社会的な問題へのサポートが必要です。また、就労支援や社会復帰支援なども重要な課題です。

さらに、睾丸腫瘍の経験者が、同じ経験を持つ他の患者やその家族と交流できる機会を提供することも大切です。患者会やサポートグループなどを通じて、情報交換やemotional support(情緒的支援)を行うことで、患者やその家族の不安やストレスを軽減し、QOL(生活の質)の向上につなげることができます。

医療者は、こうした患者会やサポートグループの活動を支援し、患者や家族のエンパワーメントを促進することが求められます。また、患者会と医療機関との連携を強化し、患者や家族のニーズに応じた支援体制を構築していくことが重要です。

睾丸腫瘍は、若年男性に発生する悪性腫瘍であり、身体的、心理的、社会的に大きな影響を及ぼします。しかし、早期発見と適切な治療により、高い治癒率が期待できる疾患でもあります。医療者は、医学的な側面だけでなく、心理社会的な側面にも配慮しながら、患者とその家族に寄り添ったケアを提供していくことが求められます。

また、社会全体で睾丸腫瘍に対する正しい知識を普及し、早期発見と適切な治療につなげていくための取り組みが必要です。学校教育や職場での健康教育、医療機関での啓発活動など、多方面からのアプローチが求められます。

さらに、患者や家族の心理社会的なサポート体制の整備も重要です。患者会やサポートグループの活動を支援し、患者や家族のエンパワーメントを促進することが求められます。

睾丸腫瘍の克服には、医療者、患者、家族、社会が一体となった努力が不可欠です。それぞれの立場から、睾丸腫瘍に対する理解を深め、支援体制の充実を図っていくことが重要です。そのためにも、医療者は、リーダーシップを発揮し、患者や家族、社会との連携を強化していくことが求められています。

睾丸腫瘍は、若年男性の重要な健康問題であり、その克服には、医学的なアプローチだけでなく、心理社会的な支援が不可欠です。早期発見と適切な治療、患者や家族へのサポート、社会全体での啓発活動など、多方面からの取り組みを通じて、睾丸腫瘍患者とその家族のQOL向上を目指していくことが重要です。

医療者には、こうした取り組みをリードしていく役割が期待されています。患者や家族の声に耳を傾け、そのニーズを的確に把握し、医療サービスの改善につなげていくことが求められます。また、社会に対しても、睾丸腫瘍に関する正しい情報を発信し、理解の促進を図っていくことが重要です。

睾丸腫瘍は、まだまだ社会的な認知度が低い疾患であり、偏見や誤解も根強く存在します。睾丸腫瘍は、若年男性の重大な健康問題ですが、早期発見と適切な治療により、高い治癒率が期待できます。睾丸腫瘍患者とその家族が、希望を持って治療に臨み、充実した生活を送ることができるようになることを願っています。